ちゅーん在宅医療介護連携協会に参加してきました。
この協会は、訪問医療・病院・介護・消防など多職種が集まり、
現場の課題を共有し、新たな連携を生み出す場です。
今回はACPが主要議題だったこともあり、ありがたいことにパネリストとして登壇させていただきました。
その中で話題に上がった「介護記録と看護記録の違い」について書き始めたところ、思いのほか深くなってしまい……気づけばRRSの話まで広がっていました。
というわけで今回は、
介護記録/看護記録の違いと、定性的指標の本当の価値
についてまとめていきます。
施設における医療体制
介護施設は「高齢者の生活の場」であり、医療機関ではありません。
看護師が日中のみ配置されている施設もありますが、
・酸素投与設備はない
・吸引は移動式の簡易機器のみ
・測定器は体温計・血圧計・SpO₂モニター程度
この限られた環境で、施設看護師は緊急度判断を求められます。
病院のように利用者の現病歴を把握できるわけではなく、その場のバイタルと症状だけで判断することが多いのが実情です。
これは、むしろ私たち救急救命士の得意分野でもありますね。
訪問医体制
多くの施設は訪問医と契約し、クリニック医師が月に数回往診します。
しかし、
・一人の利用者に対する診察は数か月に1回
・診察手段は聴診器のみ
・採血・採尿などの検査は不可
そのため、できる医療は継続処方と臨時の内服加療が中心になります。
短い診察時間、限られた検査手段の中で、医師が頼れるのは現病歴の聴取ですが、認知症の方が多い施設では、これも難しいケースが多いのが現状です。
重要な介護記録
利用者の普段の様子、変化、食事量、睡眠、排泄、行動パターン…。
これらは医師にとって、そして救急対応においても最も信頼できる“現場のデータ”になります。
介護記録
介護士の記録は、医療判断の精度を大きく左右します。
記録内容は施設や介護度によって異なりますが、一般的には以下が含まれます。
- 食事量
- 移動介助の程度
- 排便状況
- 風邪症状などの身体所見(現病歴として)
これらの特徴は、バイタルサインと排便回数を除き、ほとんどが定性的指標であるという点です。
定性的指標は、変化を機敏に捉えられる一方で、他者に正確に伝えることが難しいという弱点があります。
そのため、
- 日勤帯:普段から利用者を見ている介護士が変化に気づきやすい
- 夜勤帯:観察対象が多く、時系列の変化に気づきにくい
という構造的な差が生まれます。
また、救急搬送時に同乗する介護士が、他者の書いた定性的記録を正確に把握することは難しいという問題もあります。
これは、介護施設の目的が「生活支援」であり、医療機関のような定量的評価を求められていないためであり、決して“問題点”ではありません。
しかし、この構造を理解していない医療者は多く、施設と病院の認識齟齬につながることがあります。
病院における看護記録
病院の医師・看護師の特徴の一つは、定量的指標を多用する点です。
- 意識レベル:JCS・GCS
- 便の性状:プリツカー(Bristol)スケール
- 排泄量:尿量・便量の定量評価
入院中は、便の性状や尿量などの排泄も、定量的に評価されます。
これは、身体状況の変化を迅速かつ客観的に反映することが明らかだからです。
定性的指標/定量的指標
どちらが優れているという点はありません。
それぞれに良い点・苦手な点があります。
介護施設では、定性的指標を用いることが得意であり、病院では定量的指標を用いるのが得意という話です。
しかし医療者は、定性的指標が多用された記録を読む習慣がなく、記録を受け取ってもバイタルや食事量などの定量的指標に近いものだけを読み取ることもあります。
これは、定性的指標における介護記録は、医療記録よりも量が多くなる傾向があることも関連していると考えます。
病院における定性的指標:RRSの仕組みから
こう書いていくと、定性的指標が劣っているように捉える医療者が増えることはわかっています。
そこで、一例を出します。



RRSというものが、あなたの病院にはありますか??
RRS(Rapid Response System)とは、病院内で患者の急変を早期に察知し、重症化を防ぐための仕組みです。
私の所属する病院は、
- 心拍数
- 血圧
- 呼吸数
- 意識状態
などの急な変化をスタッフが認識した場合に、認識したスタッフの判断により、システムを起動してよいことになっています。
ここでポイントになるのは、明確な数値指標(定量)が示されていない点です。
便利ですよね。心拍数が20変わっただけでも、急な変化としてシステムを起動することができます。システムを起動すれば、救急経験豊富なスタッフが駆けつけてくれるわけです。
医療スタッフにも患者にも安心なシステムです。
一方で起動されずに、心停止時の緊急コールに至るケースが見られるのも事実です。
これは、RRS起動基準に明確な数値が記載されていないことが、一因であると私は思っています。
医療者は明確な基準なく、システムを起動するのが難しいのです。
つまり、医療者。特に医師・看護師は定量的指標から離れられないのです。
優れた定性的指標とRRS
実は、先ほどのRRS起動基準に加え、起動基準には以下の言葉が明記されています。
この印象だけで要請してかまわないのです。
この点、病院においてはリハビリテーション科からの要請では、顔色が悪いなどの定性的指標で起動することが多い印象になります。
定性的指標は、急変察知においては最も優れた指標となり得るのです。
だからこそRRSに属するスタッフは、要請者を糾弾してはならないと強く指導されます。
決して、起動したことで注意を受けることはありません。
あなたが「おかしいと思った」それは、患者の急変サインを受け取ったことを意味します。
医師に報告するには拙い情報かもしれない。でも、RRSを起動する十分な根拠です。
患者からのサインを声を大にして伝えましょう
なにかおかしいです!
私たち救急スタッフが、あなたの基に駆けつけます。
説明できなくても構いません。
その一言を待っています。
まとめ
最後に一つだけ強調したいことがあります。
介護施設で日々記録されている定性的な情報は、病院のRRSが重視する“なにかおかしい”と同じ価値を持つということです。
医療者が急変の最初のサインとして扱う“違和感”と、
介護士が日々の観察から感じ取る“いつもと違う”は、まったく同じ本質を持っています。
だからこそ、あなたが感じたその違和感は、
患者(利用者)からの最初のSOSであり、
医療者が最も頼りにすべき情報なのです。
筆者コメント
ACPについて書くはずでしたが、RRSについて触れたら、止まらなくなってしまいました。
なので、ACPは次回に任せます。
近いうちに投稿しますので、お待ちください。

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