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DNR/DNARとは?心肺蘇生を望まない選択と、私が30代でDNARを共有する理由

あなたは、心臓が止まった際に、蘇生処置を望みますか??

目次

DNR/DNARとは?

DNR(Do Not Resuscitate)/DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とは、心停止や呼吸停止が起きた際に「心肺蘇生を行わない」という医療上の指示を指します。延命治療の一種として扱われることも多く、患者本人の価値観や生活の質(QOL)を尊重するための選択肢として位置付けられています。

近年では、病院に入院する際にDNR/DNARの希望を確認されるケースが増えています。これは、院内で突然の心停止が発生した場合、医療者には直ちに心肺蘇生を開始する義務があり、患者や家族に意思を確認する時間的余裕がないためです。

院内心停止では、対応時間が非常にシビアに設定されています。
一般的な医療情報として、心停止発生から2〜3分以内に電気ショック(除細動)を行うことが理想※1とされています。
このわずかな時間の中で、家族に連絡し、意思を確認することは現実的に不可能です。

だからこそ、入院時に一律でDNR/DNARの希望を確認する病院が多いのです。
「病院でDNRを聞かれた=状態が悪いから」ではありません。
あくまで、緊急時に本人の意思を尊重するための事前確認にすぎません。

心肺蘇生(CPR)

DNR/DNARを理解するには、まず心肺蘇生(CPR)がどのような状況で実施されるのかを知ることが重要です。心肺蘇生とは、心臓や呼吸が止まった際に、胸骨圧迫や人工呼吸、電気ショックなどを用いて生命維持を試みる医療行為です。

胸骨圧迫は、肋骨が折れるほどの強い力で胸を押し込み、心臓のポンプ機能を外から代替する処置です。初めて目にする人は、その激しさに衝撃を受けることが少なくありません。

この胸骨圧迫が心肺蘇生の最も基本となる処置であり、心臓が再び拍動を取り戻すまで、あるいは蘇生中止の判断が下されるまで続けられます。医療者は3〜4人以上でチームを組み、2分ごとに交代しながら圧迫を継続します。非常に消耗の激しい処置であり、受ける患者も肋骨骨折や肺の損傷、血痰などを避けることはできません。

蘇生処置では、肋骨が折れることが珍しくないのです。

さらに、心肺停止した患者を救うためには、この胸骨圧迫に加えて、人工呼吸、電気ショック(除細動)、気管挿管、薬剤投与など、複数の処置が同時並行で行われます。

DNR/DNARが検討される理由

DNR/DNARが検討される理由

心肺停止した患者を救うことは、決して容易ではありません。
さらに、心肺蘇生によって命が助かったとしても、元の生活に戻れるケースは非常に稀であり、自宅での生活が可能なほど回復する例も多くありません。

これは病院外で心停止した場合に限らず、病院内で心肺停止が起きた場合でも同様です。
病院内では、そもそも心肺停止に陥らないよう治療が行われています。そのため、急な致死性不整脈を除けば、心肺停止に至った時点で病状が治療の限界に達していることを示す場合が多いのも事実です。

こうした背景から、本人の価値観や望む生き方を尊重するために、DNR/DNARを事前に表明するという選択肢が一般的になりつつあります。

DNRからDNARへ

かつては「DNR(Do Not Resuscitate:蘇生しない)」という言葉が広く使われていました。しかし、この表現には「一切の治療を行わない」という誤解がつきまとい、患者や家族、さらには医療者の間でも混乱を招くことが少なくありませんでした。

この誤解を避けるため、一部の国や医療機関では「No CPR(心肺蘇生は行わない)」という表現が用いられた時期もあります。心肺蘇生という特定の処置だけを対象にしていることを明確にするための言い換えでしたが、国際的な標準用語としては定着しませんでした。

その後、より正確で誤解の少ない表現として登場したのが
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation:蘇生を試みない)
という用語です。

DNAR という言葉には、

  • 「心肺蘇生という特定の処置だけを行わない」
  • 「その他の治療やケアは継続する」
    という意図が明確に込められています。

このため、AHA(米国心臓協会)をはじめとする国際的なガイドラインでは DNAR が推奨され、日本でも集中治療医学会や救急医学会がこの用語を採用しています。

DNR から DNAR への変化は、医療の姿勢が
“治療をやめる” から “患者の意思を尊重する” へ
と進化してきたことを示す象徴的な流れでもあります。


医療者の間にある誤解

DNR/DNAR は患者本人の意思を尊重するための医療上の指示ですが、実は医療者の間でも誤解されることがあります。特に「DNR=治療をしない」という誤った理解が根強く残っており、これが現場での混乱を生む原因にもなっています。これは、前述のDNARに言葉が変更されましたが、いまだに色濃く残っています。

本来、DNR/DNAR は “心肺蘇生(CPR)だけを行わない” という限定的な指示です。


しかし現場では、DNARの意図が正しく共有されていないため、以下のような誤解が生じることがあります。

  • DNRだから酸素投与は不要
  • DNARだから点滴や抗生剤は控えるべき
  • DNARの患者は積極的治療を望んでいないはず
  • DNAR=看取りの準備を始めるべき

これらはいずれも誤りです。

DNAR はあくまで「心停止時に蘇生処置を試みない」という一点に限られ、
痛みの緩和、酸素投与、抗生剤、輸液、栄養管理、苦痛緩和のための処置などは通常どおり行われます。

むしろ、DNR/DNAR を選択した患者ほど、
“いま苦しい症状をどう和らげるか”
という視点がより重要になります。

医療者側の誤解が残っている背景には、

  • DNR という言葉が長年使われてきた歴史
  • 「蘇生しない=治療しない」という直感的な誤解
  • 医療倫理教育のばらつき
  • 忙しい現場での情報共有不足
    などが影響しています。

だからこそ、DNAR というより正確な用語が推奨され、
「心肺蘇生だけを行わない」という意図を明確にする必要があるのです。

DNR/DNARと積極的治療

ちゅーん

私は30歳前後で、 DNAR を家族と共有している

DNAR と聞くと、「もう治療を望まない」「人生を諦めている」というイメージを持つ人がいます。それは、医療者にも少なからず存在します。しかし、私自身は30歳前後で、まだまだやりたいこともあるし、病気になれば治療も受けたい。手術が必要なら迷わず受けますし、救急搬送されれば全力で治療してほしいと考えています。

そのうえで私は、DNAR を家族と共有しています。

理由はとてもシンプルで、
“心停止後の質の低い延命だけは望まない”
という意思を明確にしておきたいからです。

DNAR は「心肺蘇生を試みない」という一点に限られます。
それ以外の治療──

  • 手術
  • 抗生剤
  • 点滴
  • 酸素投与
  • 検査
  • 入院治療
  • 痛みや苦しさを和らげる処置
    これらはすべて、私自身が積極的に受けたいと考えている医療です。

だからこそ、DNAR を選ぶことは「治療を諦める」ことではありません。
むしろ私は、

“心停止に至るまでの治療は最大限に受けたい”

という価値観を持っています。

ただし、心停止後の CPR は、肋骨が折れるほどの強い圧迫を繰り返し、助かったとしても元の生活に戻れる可能性は高くありません。

そして、実際にそのような人々を多く見ています。
その現実を踏まえたうえで、
“心停止後の蘇生処置だけは望まない”
という意思を家族と共有しているのです。

DNAR は「死を選ぶ」選択ではなく、
“どう生きたいか”を明確にするための選択です。
私は、いまの生活を守り、必要な治療を受けながら生きたい。
そのために DNAR を家族と共有しています。

本人の意思確認と家族の役割

DNR/DNAR は、医療者が勝手に決めるものではありません。
そして、家族が勝手に決めるものでもありません。
最優先されるべきは、本人の意思です。

しかし現実には、心肺停止という状況は突然訪れます。
その瞬間に本人の意思を確認することはできませんし、家族に連絡して話し合う時間もありません。
だからこそ、事前に本人の意思を共有しておくことが非常に重要になります。

私自身も DNAR を家族と共有していますが、それは「家族に判断を押しつけないため」でもあります。
突然の場面で、家族が「どうするべきか」を背負うのはあまりにも重い負担です。
本人の意思が明確であれば、家族はその意思を尊重するだけでよく、迷いや後悔を減らすことができます。

家族の役割は、

  • 本人の価値観を理解すること
  • 本人が望む医療を代わりに伝えること
  • 本人の意思を守ること
    この3つに尽きます。

家族が「決める」のではなく、
本人の意思を“代弁する”のが家族の役割です。

そして、本人の意思は一度決めたら終わりではありません。
年齢、健康状態、価値観の変化に応じて、何度でも見直して構いません。
大切なのは、
“いまの自分はどう生きたいのか”を家族と共有しておくこと
です。

DNAR は、本人の意思を尊重し、家族の負担を減らすための仕組みでもあります。
だからこそ、本人と家族が日頃から話し合っておくことが何より大切なのです。

ACP/AD(事前指示書)との関係

DNR/DNAR は「心停止時に心肺蘇生を行わない」という、非常に限定的な意思表示です。
一方で、人生の最終段階や急変時にどのような医療を望むのかを、より広い視点で整理する仕組みが ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)AD(Advance Directive:事前指示書) です。

ACP は、

  • 本人
  • 家族
  • 医療・介護の専門職
    が繰り返し話し合い、本人の価値観や望む医療を共有していくプロセスです。
    これは一度決めたら終わりではなく、状況や考え方が変われば何度でも見直して構いません。

AD(事前指示書)は、その意思を文書として残す方法です。
「どの治療を望むか」「どの治療を望まないか」を、本人が自分の言葉で記録しておくことで、急変時に家族や医療者が迷わずに済むという大きなメリットがあります。

DNAR は、この ACP や AD の中に含まれる“ひとつの選択肢”にすぎません。
つまり DNAR は、「心停止後の蘇生処置を望まない」という一点を明確にするための項目であり、
ACP / AD は、
「自分がどう生きたいか」「どんな医療を望むか」を包括的に整理する枠組みです。

ACP や AD があることで、

  • 本人の意思がより正確に伝わる
  • 家族の負担が減る
  • 医療者も迷わずに対応できる
    というメリットがあります。

DNAR は“死を選ぶ”ためのものではなく、
“自分がどう生きたいかを明確にするための意思表示”
ACP / AD は、その意思をより広く、より深く支える仕組みなのです。

本人の価値観を尊重するために

DNR/DNAR は、人生の最終段階における医療を考えるうえで重要な選択肢です。
しかしそれは、
生を諦めるということではありません。

心肺停止は、いつ・どこで起こるかわかりません。
だからこそ、自分がどのように生きたいのか、どのような医療を望むのかを、あらかじめ家族と共有しておくことには大きな意味があります。
事前に価値観を伝えておくことで、どんな状況でも “自分の人生観を主張できる” ようになります。

医療が進歩した現代でも、心肺停止後の治療には限界があります。
その現実を理解したうえで、
あなた自身の価値観に沿った医療判断が行われること
それこそが、DNR/DNAR の本質です。

多様性が尊重される時代だからこそ、
「どう生きたいか」を自分の言葉で示し、
その意思を家族と共有しておくことが、あなたの人生を守る力になります。

引用/参考文献

■ 引用文献
※1 Chan PS, Krumholz HM, Nichol G, et al. Delayed time to defibrillation after in-hospital cardiac arrest. JAMA. 2008;299(21):2513–2520.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/182995
※2 Chan PS, Krumholz HM, Nichol G, et al. Delayed time to defibrillation after in-hospital cardiac arrest. N Engl J Med. 2008;358(1):9–17.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18172170/

参考:日本集中治療医学会倫理委員会. DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方. 日本集中治療医学会雑誌. 2017;24(3):210-5https://www.jsicm.org/pdf/DNAR20161216_kangae_01.pdf


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